2008年12月13日土曜日

旗・のぼりの歴史

旗・のぼりの歴史
 日本の旗の起源は、古く中国の「魏志倭人伝」の記事中に、魏の国より邪馬台国の地位保証の印に、称呂印綬を卑弥呼のために贈った戦うための旗だとされる。日本書紀にも旗のことは広くとりあげられているが、これは信仰的な裏づけをもった扱いであったと考えられる。
 色に関しては、まず白から次に赤になり、中国で尊厳を表す黄色は、日本では平俗な色となっている。これは染料のもとである刈安、とち橡の実の類が、日本では容易に入手できるためであろう。
 旗の呼び方の起源は、万葉集の「およそ本朝の俗全旗を読みて、波太(ハタ)ということ、波とは長き義なり、太とは手なり、手の長くかかりたれば波太と言えり」による。これを手長旗といい、初期はこの形式であった。前後して、宗教の用具としてインドより仏幡の類も日本に入ってきて、図柄や形により権威を表示した。
 大和朝では、中国の隋・唐の制度・組織の影響を受け、朝廷行事に「日像幢」「月像幢」「四神旗」などを立て、唐の制度をそっくり真似た、それらのならわしは、以後ずっと天皇即位式のときの用具として前例となった。
 その後の有名な「源氏の白旗」「平家の赤旗」は、天皇家から皇子・王子が臣籍に下るとき、新しい姓を授かるのが例であり、白旗・赤旗は臣籍降下のとき、新姓とともに贈られたものである。それに、藤原氏の水色、橘氏の黄色とカラー分けになったことも中国の「五正色旗」(四神旗の色、青・赤・黒・白に黄色を加えた旗)の真似であったらしい。
 のぼりの形式は、応仁の乱に入る少し前にのぼり式の旗が工夫され、以後この形式が武家の旗の形の主流となったが、それ以前の旗の形は、竿の先に一本の横棒を添え、旗布の一端をそこへ固着させ、長く流す形式のものであった。この場合、横棒を「横上」と称し、旗のいちばん神聖な箇所とされた。その後、戦国時代に識別の手段として、ある一方が旗の形を変えてのぼり形式にしたといわれる。ただそれだけのことが戦場の旗を一変させた。
 のぼりの別名を「乳付き旗」という。犬の乳首のように行儀よく並んでいるためである。また「耳付け旗」ともよぶ。のぼりの語源は、乳を伝わって、旗竿の上へ上へ押し上げるところからノボリ(昇り)と称しているともいわれている。
 現在では、一般的に「乳」のついた伝統的な形式のものを「のぼり」(幟)、棒の横にとりつける形式のものを「はた」(旗)とよぶ場合が多い。日本には幕末から明治にかけて、ヨーロッパの伝統的な旗の形式が導入され、国事、軍事、船舶、スポーツなどの分野からひろまっていったとされる。
 ヨーロッパの伝統的な旗の形状は、目的によって、スタンダード(Standard、王室などの掲揚旗でいちばん大きなもの)、バナー(Banner、王・騎士などの個人旗)、エンサイン(Ensign、軍艦の旗)、ペノン(Pennon、槍などの先につける目印)、ペナント(Pennant、船のマストなどに付け、船の区別の旗)などがあり、現在のスポーツ用の旗、団体交流用バナー、優勝旗などにこの形式のものがみられる。
 日本では、「旒」「幡」「旌」の文字で表現されたこともある。

現在の旗・のぼり
 いま、われわれの目に何気なく映る旗やのぼりも、時の流れの中でさまざまに変貌し、時代の求める仕様に適応しながら使われてきた。身近な街角や、雑踏に立てられている赤い「大売出し」ののぼりは、暴れたような文字を使い、売り子の大きな売り声と混じり合って売り出しの雰囲気を盛り上げる。村の鎮守の森に立てられたのぼりは、五穀豊穣を喜んで祭囃子とともに農作の祈りをこめているようだ。いろいろなイベント会場やスポーツ大会に、華やかにデザインされて掲げられる旗は、そこに集う人々の喜びや共通意識を高める。1枚の旗やのぼりは、われわれの生活に深く密着し、次なる新しい世界にも深くかかわり合って使われていくであろう。
 旗やのぼり・幕の染色の技法も、従来の天然繊維への染色から、化学繊維(ナイロン・ポリエステル・アクリル)への染色にも対応できるようになって、その彩りもさらに鮮やかになってきている。とくに、分散染料による「昇華なせん」は、現在、宣伝のぼりや宣伝旗にみられるように、非常にカラフルに街を彩っている。
 最近の新しいデザインの旗・のぼりには、近代的クリスタル建築にマッチした色彩、質感のあるものが要求され、デザインも写真技術の応用による、高級化粧品・毛皮・カメラ・自動車などの商品に、アイドル・スターのカラー写真を組み合わせたものが多い。これを表現するために生地はポリエステルを使い、繊細な色調をデリケートに表現できる染色をおこなっている。
 しかし、神社・寄席・歌舞伎・相撲などに使われる昔ながらののぼり・旗も、わが国古来の伝統的な感性をもつものとして、どんな時代にも人の心に残って受けつがれていくことであろう。


日本の印染

全国青年印染経営研究会 著 より

0 件のコメント: